修行時代に先生に言われた印象的な言葉【4】2012年08月06日 10時36分


「リストは無邪気でかわいい人だと思う」
(パスカル・ドヴァイヨン先生)

“B-A-C-Hの主題による幻想曲とフーガ” でレッスンを受けている時、
先生はふとそうおっしゃいました。

歴史に残る楽聖・リストがどう「カワイイ」というのでしょうか。
先生の言葉は当時20代だった私にとって、直ぐにピンと来るものでは
ありませんでした。

「ヴィルトゥオーゾ、社交界の名士、教育者、宗教家。リストの音楽を
聴いていると、 彼はいくつもの顔を持っており、そのひとつひとつを
懸命にこなしている様子が伝わって来る。宗教的な曲では、純真で
明快な陶酔感が僕には微笑ましく感じられるんだよ。そんなリストの
音楽を、包容力を持って弾きなさい。」

40代になり、モーツァルトやシューベルト、ショパンといった天才たちの
生涯よりも自分の音楽人生が(勿論、凡才としてですが)ずっと長いもの
になりそうだと実感した時、先生が仰った「包容力」という言葉の持つ
ニュアンスが少し理解出来るような気がしたのです。

我々は、若くして夭逝した天才たちの年齢をあっという間に越えてしまいます。
60歳になった時に、31歳で亡くなったシューベルトの音楽にどう接する
べきなのか。

かつては憧憬の念を持って仰ぎ見た音楽を、「大人」になってからは
包み込むように演奏する。
社交界の寵児だった青年ショパン、若くして死と対峙したシューベルト、
様々なアイデンティティをさすらい求めたリストの心の声に、愛で慈しむ
ような気持ちで取り組む事が、演奏家の最終的なひとつの理想形
なのではないでしょうか。

青柳晋(ピアノ)

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