修行時代に先生に言われた印象的な言葉【6】2012年08月08日 13時54分


「勇気を持って!」(リリー・クラウス先生)

まだ小学生だった私は、父がアメリカに赴任していたこともあって、
畏れ多くもクラウス先生の晩年時にレッスンを数回受けさせて頂く
機会に恵まれました。

初めてのレッスンに伺ったのが小学校3年生で、最後は中学2年生でした。
この時には既に一家で日本に帰国していたので、中学生の時のレッスンは
日本から受けにいきました。

バッハやモーツァルトのコンチェルトのレッスンがメインでしたが、
私が大きくなるにつれて先生のレッスンもだんだんと厳しく、情熱的に
なっていった事を覚えています。
最後のレッスンではモーツァルトの「戴冠式」を持っていきましたが、
その時に最も印象的だったお言葉は、「もっと勇気を持って表現しなさい!」
というアドヴァイスでした。

「リスクを恐れていては、良い演奏は出来ない。この場合のリスクとは、
ミスの事だけではありません。
人にどう思われているのか、自分の表現が受け入れられないのではないか、
という恐れです。
演奏家は、本番前日までは自己嫌悪の塊でありなさい。でもいざ本番
となったら瑣末事から自分を解放し、より深く、手が届かない程に高く、
遠い所に音を放つようにすれば自然に人の心に響きますよ。」

先生のお言葉の趣旨もですが、なんとかご意志を私に伝えようとする
その情熱的な口調も感動的で、それは子供心にも「先生にアドヴァイスを
受けている今、これは自分の人生でとても大事な局面なんだ」という
オーラを感じさせずにはいられないものがありました。
そんな圧倒的な存在感を巨匠と、少しでも交流を持たせていただいた
事をとても光栄に思います。

ちなみに先生はモーツァルトの弾き手としてご高名ですが、ショパンの
バラード1番を見ていただいた時に、お手本として弾いて下さった演奏が
忘れられません。
出だしの、テーマへの導入の部分が、一つの大きなため息のように
聴こえたのです。


青柳晋(ピアノ)

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